ステントグラフト治療技術班

解離性大動脈瘤の偽腔内の可視化

慢性期の大動脈解離に用いるステントグラフトは、真腔と偽腔を交通する裂口を塞いで血流を遮断し、偽腔内の流れを停滞させて血栓化を期待し、破裂を防ぐことを目的とする医療機器です。しかし、大動脈解離には複数裂口が存在し、全ての裂口を塞ごうとすると重要な分岐血管の血流まで遮断してしまう場合があります。真腔から偽腔へ血液が流入する近位部の裂口を塞ぎ、再流入する遠位部の裂口をどこまで塞げば瘤内が血栓化できるかが分かれば、臨床での治療指針を示すことにつながります。本研究は、ステントグラフトが血管内血流に与える影響の解明に向けて、粒子イメージ計測法(PIV)を用いて偽腔内の血流可視化を行っています。(Fig.1 ステントグラフト留置前後の偽腔内を可視化した様子)また、流速分布を算出し、血栓化が発生しうる箇所、解剖学的因子を解明していきます。

腹部大動脈瘤モデルを用いたステントグラフトの留置形態に関する検討

腹部大動脈瘤症例に対して行われるステントグラフト内挿術は、瘤内への血流を遮断し、破裂を防ぐことを目的としています。しかし、瘤が腎動脈近傍にある患者では腎動脈血流が遮断されるため治療が困難となります。このような患者の治療手技として、小口径のステントグラフトを腎動脈に挿入し、大動脈部にも留置して腎動脈への血流路を確保する手技がありますが、瘤部への血流遮断に影響を及ぼす因子とその評価方法に関する指標は定まっていません。本研究では、瘤への血流路の発生に影響を及ぼすと考えられるステントグラフト血管壁への密着特性を定量化しています。(Fig.2 ステントグラフトとモデル血管の非密着部の様子)

有限要素解析を用いたステントグラフトの留置形態予測

開窓型ステントグラフト(Najuta®)は、開窓により分枝血流を温存可能な国内唯一の弓部大動脈瘤治療デバイスです。しかしながら、留置後に血流・血圧の影響を受け、瘤内に内部ステントが変形して開窓の浮きを引き起こす恐れがあります。これは瘤内の血流残存であるエンドリークに起因する重要な課題とされていますが、ステント変形の主要因は未解明です。本研究は、患者CTデータから取得したステントグラフト及び大動脈瘤をCADモデル化し、有限要素解析(FEM)により留置プロセスを模擬し、留置形態を予測することで、ステント変形を抑制できる最適な留置位置・デバイス設計を目指します。