血管内治療評価モデル班

冠動脈石灰化病変治療の有効性を評価する石灰化病態モデルの研究開発

 冠動脈石灰化とは、心臓に血液を送る冠動脈にカルシウムが沈着し血管が硬化、狭窄する疾患で、心筋梗塞などの要因となります。
 狭窄した血管を治療するためには石灰化病変に対して破壊・切削などの処理を加える必要があります。血管の形態や病変の重症度などによって複数の治療機器が使い分けられていますが、重症度に応じたデバイスの選択基準は確立されておりません。各病変に対する治療効果を定量的に評価できる生体外評価試験システムの開発により、各デバイスの性能を重症度との関連で定量的に明らかにすることができ、より良い治療戦略立案の一助となります。
 本研究は、冠動脈石灰化病変を模擬した病変モデルを開発することで、各治療機器の有効性を評価し、最適な治療方法を明らかにすることを目的としています。透明な材料を使用した冠動脈モデルにより石灰化破壊中の様子を観察できるだけではなく、高分解能CTなどの機器を使用してデバイス使用後の石灰化形状の計測(図1)することができます。
 これらの試験を通じて、臨床では可視化できない治療機序を明らかにしていきます。

                     図1 石灰化モデルの様子

患者特異的冠動脈形状および心拍動に伴う動きを模擬したステント留置形態評価試験システムの研究開発

 虚血性心疾患とは、心臓の筋肉へ血液を送る冠動脈が狭窄及び閉塞することで心臓に充分な血液が行き渡らなくなる状態です。
 左冠動脈主幹部分岐部病変に対するステント留置術は、手技が複雑となることや、リスクが高いことが課題点となっています。これらの病変に対する治療の安全性と有効性を評価できる試験システムの研究開発は、個々の病態により適した治療を選択する一助となります。
 そこで本研究では、患者特異的な血管形態及び心拍動に伴う動きを模擬したステント留置試験系を開発しています(図1)。具体的には、患者個人の血管形状を模したシリコーン血管モデルと、患者個人の拍動による血管運動を作り出すロボットアームの機構から構成されます。そして、福岡輝栄会病院心臓血管センター長の挽地裕医師らの協力のもと、患者特異的な血管形態及び心拍動に伴う血管運動がステント留置形態に及ぼす影響を評価しています。

                     図1 試験システムの様子

生体吸収性Mg合金フローダイバーターの耐食性評価に関する研究

 フローダイバーター(FD)留置は、細かいメッシュ状のステントを脳動脈瘤の入口部に留置し、瘤内への血流を阻害して血栓化を促進し、脳動脈瘤を退縮させる治療法です。この方法は大型脳動脈瘤にも高い治療効果が期待できますが、1) 再治療の際に瘤内へのカテーテルアクセスが困難になるため、治療法が制限される、2) 半永久的な抗血小板薬服用に伴う出血リスク、などの課題があります。
 瘤内の血栓化に必要な一定期間だけ形状を維持し、その後、体内で完全に分解・吸収される生体吸収性ステントが実現すれば、体内に異物を残さず、追加治療の選択肢を制限しない、安全で患者さんに優しい治療が可能となります。
 当研究室では、順天堂大学、京都大学、熊本大学、京都工芸繊維大学と共同で、高強度かつ高靭性を備えたMg合金製FDの開発研究に取り組んでいます(図1)。本研究では、Mg合金の分解に影響を与える因子(圧力・流量、pH、電解質など)を生理的範囲で調整可能な耐食性試験装置を開発し(図2)、Mg合金製FDの耐食性と分解挙動を明らかにすることを目的としています。

                 
         図1 開発中のMg合金製FD          図2 Mg合金製FDの耐食性試験装置
    (Akiyama R, et al. J NeuroIntervent Surg 2024)