数値解析医療応用班
数値流体力学による大動脈疾患の発生リスク因子に関する研究
数値流体力学(CFD: Computational Fluid Dynamics)は、流体の挙動を数式で解析・可視化する技術です。この手法は、流速などの流体パラメータを定量化し、医療分野における血行動態解析に広く応用されています。当研究室では、大動脈疾患(大動脈解離や大動脈瘤)に焦点を当て、CFD数値解析手法で疾患の発生機序を解析する研究を行っています。大動脈の三次元形状は、血行動態に大きな影響を与えます。異なる形態の大動脈では、OSI(Oscillatory Shear Index)の分布が大きく異なることが知られていますが、大動脈疾患の発生の関係性は十分に解明されていません。本研究は、疾患発生のリスク評価の向上に寄与すると考えられます。
本研究では、三次元大動脈モデルを用いてCFDより血流動態を解析します(Fig.1)。より具体的には、大動脈形状がOSIなどの分布に及ぼす影響を定量的に評価し、大動脈疾患の発生リスク因子の解明を目指しています(Fig.2)。


Fig.1 大動脈メッシュモデル Fig.2 大動脈の形態とOSIに関するCFD解析
有限要素解析によるカッティングバルーンを用いた冠動脈石灰化病変の治療支援
冠動脈疾患は動脈硬化による血管狭窄が原因で、心臓への血流を妨げます。石灰化が進むと治療が困難となり、ステント留置前に硬い石灰化病変部を破壊するデバイスが必要です。カッティングバルーン(ブレード付きバルーン)は有効な選択肢ですが、石灰化狭窄分布角度や血管径に応じた適切なデバイス選択が重要です。カッティングバルーンは、一部の石灰化病変の破壊が困難で、血管損傷リスクが存在します。このため、より効果的に石灰化病変を破壊し、血管へのダメージを抑えるデバイスの適正使用が求められています。本研究では、有限要素法を用いた解析により、カッティングバルーンの拡張性能や安全性を評価し、臨床的な有効性向上を目指します。
石灰化病変を模擬したモデルを構築し、カッティングバルーンのブレード向きや血管径比の影響に関する解析を行っています(図1)。最適なデバイスのサイズ選択を検討することで、石灰化破壊性能を維持しつつ血管損傷を低減する科学的な根拠を提供します(図2)。この成果は、臨床現場でのデバイス利用の指針となると期待されます。


図1 有限要素解析モデル 図2 石灰化モデル内の応力分布
有限要素解析による椎体間固定術後の隣接椎間障害の発生因子の解明
成人脊柱変形は腰痛や歩行障害を引き起こす疾患で、治療には椎体間固定術が用いられます。しかし、術後に発生する隣接椎間障害は、固定セグメント周囲の変形や応力増加による椎間板劣化を引き起こし、患者の生活の質(QOL)を低下させます。隣接椎間障害の発生を防ぐため、発生メカニズムの解明と新しい手術方法の提案が必要です。本研究は、固定後の応力分布や変位の変化を明らかにし、安全で効果的な治療法を提案することを目指します。
患者の脊椎CTデータから三次元モデルを構築し、有限要素解析を用いて固定術後の圧縮・曲げ負荷下での応力と変形を評価します(図1)。これにより、隣接椎間障害の発生因子を解明し、そのリスクを低減する新しい固定術を提案します(図2)。


図1 有限要素解析モデル 図2 モデルの変位結果
数値流体解析を用いた左冠動脈主幹部分岐部におけるステント血栓形成の原因究明
冠動脈ステントは冠動脈狭窄症に用いられる治療デバイスであり、血管内に通したカテーテルから冠動脈に挿入し、内部から拡張することにより血流の改善を行います。この治療は広く普及していますが、特に左冠動脈主幹部分岐部においては、術後の冠動脈の再狭窄やステント内における血栓形成が報告されています。ステントの拡張不全が多く報告されており、ステント血栓形成部位とステント留置形態に起因する流れの因子の関係の解明が重要となります。
本研究では、生体データに基づいて作製されたシリコーン製冠動脈モデルにステントを留置し、Micro-CT撮像により三次元形状を抽出して流体解析モデルを作製します。このモデルを用いてヒト冠動脈流量圧力環境下における数値流体解析を行い(図1)、ステント留置形態に応じた流れを可視化し、ステント血栓形成との関係性を検討しています。
