細胞シート応用班
灌流可能な毛細血管様構造を有した薬効評価用皮膚モデルの構築
2013年にEUが化粧品等の化学物質に関する動物実験を全面禁止したことを受け、動物実験の代替試験法の開発が求められています。中でも、培養細胞由来の皮膚組織を用いた薬効評価への注目が高まり、研究開発が進められています。現在の人工皮膚組織には真皮層に毛細血管構造がなく、薬剤が血流を介して表皮に与える影響を評価することはできません。真皮層に毛細血管構造を持つ皮膚組織を開発することで、血液中の薬剤が表皮に与える影響を評価可能となり、経口薬や静脈注射に関する薬効評価の精度向上が期待されます。
本研究では、真皮層に毛細血管様構造を持つ皮膚組織を構築するための灌流培養装置を開発しています(Fig.1)。この装置は、成熟した表皮と灌流可能な三次元毛細血管構造を持つ真皮を同一試験系内に両立させるもので、新たな薬効評価手法の確立を目指しています(Fig.2)。


Fig.1 灌流培養回路 Fig.2 蛍光顕微鏡画像
立体型循環灌流システムの確立及び移植可能な膵島組織の構築
近年、糖尿病の根治治療として、インスリンを分泌する膵島β細胞を直接移植する膵島移植が注目されています。膵島は大量の血液供給を必要とするため、移植には血管網を有する必要があります。血管網を付与する方法として、新鮮な培養液を連続的に供給しながら古い培養液を排出する灌流培養があります。従来の灌流培養には、培養液の大量消費や培地交換によるコンタミネーションのリスク、操作の複雑さといった課題があります。これらの課題を克服し、実際に血管網が付与された組織を構築することができれば、組織工学への大きな貢献が期待されます。
本研究では、立体型循環灌流システムを用いて血管網付与膵島細胞シートを作製することを目的としています。このシステムは、培地交換を必要としない循環型で、下から上方向に灌流を行います。これにより、必要最小限の培養液で培養が可能になり、培地交換によるコンタミネーションのリスクも軽減されます。現在は、このシステムを用いて血管網の作製に挑戦しています。

重力負荷のヒト骨格筋組織モデルの機能および構造に及ぼす影響の解明
近年日本を筆頭に急速に進む高齢化に伴い、重篤な筋萎縮患者が増加しています。高齢の筋萎縮患者は加齢による筋再生能力の低下に加え、寝たきりなどにより骨格筋に対する重力負荷が不十分なことからその症状が進行しております。そのため、身体の可動部を司る骨格筋の維持には適度な重力負荷が不可欠であり、筋と重力には深い関係があります。筋と重力の関係性に迫ろうと実際に無重力下の宇宙で実験を行うのは、技術や費用の面から容易ではありません。そこで、微小重力を模擬可能な装置を用いて地上で実験を行うことで、未解明な点の多い筋と重力の関係性に関する新たな知見が得られ、さらに将来的には筋萎縮のより深いメカニズム理解や筋萎縮に対する効果的な治療法の開発につながることが期待されます。
本研究では、生体外で作製したヒト筋芽細胞内包フィブリンゲル(Fig. 1(a))を、分化誘導を行いつつ装置(Fig. 1(b))中で培養したのち、その収縮力の測定や免疫蛍光染色を行うことで、微小重力負荷の、筋管への分化に与える影響を調べる実験を行っています。ヒト骨格筋細胞の成長過程毎の重力負荷による影響を評価することで、微小重力負荷のみならず過重力負荷も含めて包括的に筋と重力の関係性を解明することを目標としています。

藻類を足場として用いる新規培養法の開発
近年、世界的な人口増加による食糧不足や従来の畜産業の環境問題等の解決策の一つとして、培養肉が注目されています。培養肉の足場(スキャフォールド)は、細胞が立体的に成長し、自然な肉の食感を再現するために重要な役割を果たします。現状、組織成熟化をサポートし、繊維構造を再現できる食用可能な足場は存在しません。そこで、微細藻類の培養法を開発できれば、ビタミンとアミノ酸などの栄養が豊富であるため、より健康的な培養肉を作製できます。藻類は太陽エネルギーを利用して二酸化炭素を吸収し容易に大量培養ができるので、環境負荷を低減でき、環境にやさしく持続可能な培養法にも貢献できます。
本研究では、培養肉生産において微細藻類を細胞の成長足場として新規培養法を確立することを目的とします。現在は細胞の配向性やスケールアップさせる培養方法について研究を進めています。
